新郎新婦の母親は、当日もっとも人目に立つ親族です。
集合写真の中央に並び、ゲストの出迎えから見送りまで動きます。それだけに「黒留袖でないと失礼なのか」「洋装でもいいのか」「借りるか買うか」と、決めることが多いわりに判断材料が見つかりにくいところでもあります。
この記事では、和装と洋装をどう決めるか、黒留袖とマザードレスそれぞれの選び方、レンタルと購入の費用、そして意外と差がつく「どこで借りるか」まで整理しました。相手のお母様との合わせ方も、ケース別に示しています。
最初に決めるのは「和装か洋装か」ではない
多くの人が和装か洋装かで悩みますが、先に決めるべきは格です。母親は正礼装という、もっとも格の高い装いを選びます。
そのうえで、和装と洋装のどちらを選んでも構いません。そろえるべきは和洋ではなく格なので、片方の母親が黒留袖、もう片方がロング丈のドレスという組み合わせでも問題ありません。親族全体の格の並びについては親族の服装マナーで図にして解説しています。

相手のお母様に合わせるときの考え方
実際には、相手の家がどうするかで決まる部分が大きくなります。次の3つのケースで考えると迷いません。
- 相手のお母様が黒留袖:こちらは黒留袖か、ロング丈の正礼装ドレスを選びます
- 相手のお母様が洋装の正礼装:こちらもロング丈にそろえます
- 相手のお母様が準礼装:こちらも一段下げて、膝下丈のドレスに合わせます
POINT:ここで大切なのは、先に相手へ聞くことです。「うちは黒留袖にしようと思っていますが、そちらはいかがですか」と切り出せば、格を合わせる相談として自然に伝わります。当日になって差が出ても直せないので、衣装合わせの前に済ませておくのが安全です。
黒留袖の選び方
和装を選ぶ場合、母親の正礼装は五つ紋の黒留袖です。既婚女性の第一礼装にあたります。
紋の数と位置を確認する
五つ紋とは、背中に1つ、両袖に2つ、両胸に2つの合計5つの紋が入っているものを指します。レンタルの黒留袖はほぼ五つ紋ですが、譲り受けた着物を使う場合は紋の数を必ず数えてください。三つ紋や一つ紋では格が下がり、正礼装になりません。
柄は裾だけ。年代で選び分ける
黒留袖は上半身が黒無地で、柄が入るのは裾だけです。この裾の柄をどう選ぶかで印象が決まります。
- 40代〜50代:向かい鶴、御所車、熨斗、牡丹といった吉祥文様が似合います。朱色や藤色など和の色づかいのものを選ぶと、落ち着いた華やかさになります
- 60代以上:貝桶、花車、松竹梅など、色数を抑えたものが品よくまとまります。裾模様の面積が小さく、柄の入る位置が低いものほど落ち着いて見えます
柄の量は写真での見え方にも影響します。全身が写る集合写真では裾しか見えないため、柄が控えめすぎると黒一色に見えることもあります。試着のときは立った状態を少し離れて確認すると、当日の見え方に近づきます。

小物は決まりがある
帯揚げと帯締めは白、草履とバッグは金銀系、そして末広(扇子)を帯に挟みます。末広は縁起物なので、暑くても開いてあおぐものではありません。小物の詳細は親族の服装マナーにまとめています。レンタルなら一式そろって届くので、迷う場面はほとんどありません。
マザードレス(洋装)の選び方
母親が着る洋装のフォーマルドレスはマザードレスと呼ばれます。着付けの負担がなく動きやすいことから、選ぶ人が増えています。
- 丈:正礼装はくるぶし丈に近いロング丈で、昼は「アフタヌーンドレス」、夜は「イブニングドレス」と呼ばれます。準礼装なら膝からミモレ丈で、昼が「セミアフタヌーンドレス」、夜が「セミイブニングドレス」です
- 袖:袖のあるものを選びます。五分丈より短い場合は、ボレロやジャケットで肩を隠します
- 色:黒、ネイビー、グレーが定番です。ガーデンのある会場など、暗い色が重く見える場面では濃いめのベージュやシャンパンカラーも選べます。ただし白に近い淡い色は新婦と重なるので避けます
- 装飾:きらびやかすぎるものは避けます。主役より目立たないことが前提です
素材は時間帯で選び方が変わります。昼の式は光沢を抑えたシフォンやジョーゼットが向き、夜の式ではサテンのようなツヤのある素材が照明に映えます。ほどよいツヤのシャンタンは、昼夜どちらでも使えます。この昼夜の考え方は平服と言われたときの服装マナーでも解説しているとおり、ゲストの装いと共通です。
華やかさが足りないと感じたら、パールのネックレスやコサージュ、ブローチで足します。母親の装いは黒やネイビーに寄るので、小物で光を入れると集合写真での印象が変わります。

マザードレスに合わせる足元と小物
ドレスが決まったら足元と小物です。母親は受付前の挨拶から見送りまで立ち歩くので、見た目だけでなく動きやすさも選ぶ基準に入ります。
- 靴:つま先の隠れるパンプスを選びます。ヒールは3センチ以上が目安ですが、高さより歩きやすさを優先してください
- ストッキング:肌になじむベージュを履きます。黒は弔事を思わせるので使いません
- バッグ:小ぶりのフォーマルバッグにします。荷物はクロークへ預け、席まで持ち込まないようにします
- アクセサリー:パールが定番です。昼は輝きを抑えたもの、夜は光を受けるものが映えます
素材で気をつけたいのがファーとアニマル柄です。殺生を思わせるため慶事では避けます。バッグや羽織ものを選ぶときに見落としやすいところです。

レンタルと購入、どちらを選ぶか
費用の目安から見ていきます。
- マザードレスを買う:2万円〜10万円ほどが中心です。通販ならもっと安いものもありますが、ロング丈で生地のしっかりしたものは4万円台から探すことになります
- マザードレスを借りる:1万円〜5万円ほど。ネットのレンタルには1万円を切るものもあります
- 黒留袖を借りる:借りる場所によって幅があります(次の章で詳しく触れます)
金額だけでは決められないので、それぞれの長所と短所を並べます。
購入が向いている場合
- サイズを自分に合わせられる:直しを入れられるので、既製品が合いにくい体型でもきれいに着られます
- 小物まで自由に組める:借りた一式に縛られず、手持ちのアクセサリーを合わせられます
- 汚す心配をしなくていい:レンタルのように、汚したときの追加料金を気にせず過ごせます
レンタルが向いている場合
- 保管の手間がかからない:とくに着物は湿気と虫の管理が必要で、置いておくだけで手がかかります
- 体型が変わっても困らない:次に着るのが数年先になるなら、買っても入らなくなることがあります
- そのときの流行に合わせられる:ドレスは型が古びるので、着るたびに選び直せる利点があります
ドレスなら、下の子の結婚式や親族の集まりで再び袖を通す見込みがあるかどうかが分かれ目になります。ただし次に着るのが数年先なら、そのとき同じサイズで着られるとは限りません。「この先もう一度着る場面があるか」と「そのとき同じように着られるか」の2つで考えると決めやすくなります。
黒留袖のレンタル相場は「どこで借りるか」で変わる
黒留袖のレンタルは、借りる場所によって衣装代がかなり違います。ただし衣装代だけで比べると判断を誤ります。着付けをどこで、いくらで頼むかがセットで動くためです。
- 式場・ホテルで借りる:衣装は2万円〜6万円、ハイクラスのホテルでは3万円〜10万円ほど。草履やバッグが別料金になることもあります
- 着物専門のレンタル店:帯や小物、草履バッグまで含んだ一式で3万円〜9万円ほど
- ネットで借りる:1万円〜5万円ほどと、衣装代だけならもっとも安く収まります
ここに着付け代が乗ります。式場やホテル内の美容室は着付けだけで5,000円〜2万円、ヘアセットとメイクまで頼むと1万5,000円〜3万5,000円が相場です。着物レンタル店ではプランに含まれるか、5,000円〜7,000円ほどで済みます。ただしレンタル店ではヘアセットまで頼めないことが多く、そのぶんを別に見ておく必要があります。
さらに、外部で借りた着物を式場で着付けてもらう場合、持ち込み料を取る式場があります。着物1点につき5,000円〜1万5,000円が相場で、格式の高いホテルほど高くなります。安く借りたぶんが持ち込み料と着付け代で戻ってしまう、ということが起こります。
POINT:比べるときは衣装代・着付け代・持ち込み料の3つを足した金額で並べてください。見積書では別々の項目になっていることが多く、衣装代だけを見ると安く見えます。引き出物を持ち込みにするか式場で注文するかとまったく同じ構図です。
当日の段取りで見落としやすいこと
費用よりも実際に困りやすいのが段取りです。特にネットで借りる場合、着付けとヘアセットを自分で手配する必要があります。
- 着付けの予約:式場提携の美容室か、外部の美容室かを決めて予約します。当日の開始時刻から逆算します
- ヘアセットとメイク:着付けとは別料金です。同じ場所で頼めるかを確認します
- 移動時間:外部で着付けをすると、着物のまま会場へ移動することになります
- 返却の方法:式の後に誰がどう返すのかを、当日までに決めておきます
- メイクの持ち:涙をこらえる場面があるので、落ちにくいものを使っておくと安心です
- 髪型:後れ毛を出した無造作なまとめ方より、きちんと整えたスタイルのほうが礼装になじみます
母親は当日、受付の挨拶や親族の取りまとめで動き回ります。数千円の差より、当日の負担が少ないほうを選ぶという判断も十分に合理的です。準備全体の流れは式場決定後にやることリストにまとめています。
母親の服装で避けたいこと
ここまでと重なる部分もありますが、最終確認として押さえておきたい点をまとめます。母親は写真に必ず写る立場なので、当日になって気づいても直せません。
- 白や白に近い色:新婦の色です。照明で白く見える淡い色にも注意します
- 新婦より華やかな装い:色・光沢・装飾のいずれでも、主役を上回らないようにします
- お色直しのカラードレスと同じ色:新婦が何色を着るのかは本人にしか分かりません。衣装を決める前に聞いておいてください
- 肩の出るデザイン:ボレロやショールで隠します
- 全身が黒一色:弔事を思わせます。コサージュやパールで必ず光を足してください
よくある質問
Q. 洋装でも失礼になりませんか?
なりません。格さえ合っていれば洋装で問題なく、実際に選ぶ人は増えています。ただし正礼装にするならロング丈が条件です。膝丈のワンピースは準礼装にあたるため、相手のお母様が黒留袖だと格が下がってしまいます。
Q. 相手のお母様と色がかぶったら?
黒留袖同士は当然かぶりますし、それが普通なので気にする必要はありません。洋装同士で色が同じになる場合も失礼にはあたりませんが、写真で見分けがつきにくくなるのは事実です。事前に分かっているなら、どちらかがネイビーにするといった調整をしておくと収まりがよくなります。
Q. 色留袖ではだめですか?
格の上では問題ありません。五つ紋の色留袖は黒留袖と同格で、正礼装として扱われます。ただし母親は黒留袖を着るのが慣例で、近年は「黒留袖は新郎新婦の母親だけ、叔母や伯母は色留袖」という分け方も広がっています。母親があえて色留袖を選ぶと、親族の並びのなかで立場が見えにくくなることがあります。和装にするなら黒留袖が無難です。詳しくは親族の服装マナーで整理しています。
Q. 黒留袖は買ったほうがいい?
着る機会が結婚式に限られるうえ、保管にも手間がかかるため、レンタルを選ぶ人が大半です。子どもが複数いて何度も着る見込みがあるなら購入も考えられますが、その場合も体型の変化やお手入れの費用まで含めて比べてください。
Q. 体調が心配で和装がつらい
迷わず洋装にしてください。着付けの締めつけと重さは想像以上で、長時間の着席や立ち仕事が続く母親には負担になります。ロング丈のマザードレスを選べば格は保てるので、体調を優先することがマナー違反になることはありません。
Q. 父親の服装との組み合わせは?
父親も正礼装にそろえます。昼はモーニングコート、和装なら黒の五つ紋付き羽織袴です。夜は本来なら燕尾服ですが、いまは着る人がほとんどいないため、本来は準礼装にあたるタキシードが実質的な夜の正礼装として扱われています。夫婦で和洋が分かれても構いませんが、格は合わせてください。礼装の種類は花婿の身だしなみ・タキシード選びでも解説しています。
まとめ
- 先に決めるのは和洋ではなく格。母親は正礼装で、和装と洋装が混ざっても構わない
- 相手のお母様が黒留袖ならこちらは黒留袖かロング丈、準礼装なら膝下丈と、格で合わせる
- 黒留袖は五つ紋を確認し、裾の柄は年代で選び分ける
- マザードレスは正礼装ならロング丈、袖あり。素材は昼夜で選び分ける
- 比べるのは衣装代ではなく、着付け代と持ち込み料まで足した合計
- ネットで借りるなら、着付けとヘアセットの手配が自分の仕事になることを織り込んでおく
母親の装いは、自分の好みだけで決められないところが厄介です。ただ、格を先に決めて相手のお母様と共有してしまえば、あとは着るものを選ぶだけになります。まず一本、相談の電話を入れるところから始めてください。